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    KOUTEIBEKKAN

    KABURAGISHIZUKI Diary

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    梅雨の苗②

    9/28 12:01

    そもそも、彼女はなんだか不思議なのだ。

    成績をちらっと見るにとても頭がいいし、学校も毎日普通に来ているし、何故留年したのだろうか。

    クラスメイトとも馴染んでいるのに下世話な噂は聞かないし、むしろ誰々が告った誰々が振られたなんて話ばかりだった。そのすべてを、彼女は断っていたようだ。

    6月のあるとき、突然おれの携帯が短く鳴った。

    ただのメールの通知音。普段なら後回しにするのだけれど、その時なんだか無性に嫌な予感がしたのでメールを開封してみた。

    『会いたい。倉島駅、西改札口』

    早苗からだった。

    メールアドレスは交換していたが、メールが届くのは初めてだった。

    倉島駅は最寄り駅ではなかったが、自転車なら15分で着く場所だ。なにより、気になっていた女子から「会いたい」と言われたのが嬉しすぎて、期末考査の課題を放り出してチャリに飛び乗った。小雨がぱらついていた。

    西改札口のバス停近くで、早苗は柱に凭れて待っていた。傘は持っていなかったが、濡れている様子もない。ついさっき駅についたようだ。

    「早苗ちゃん」

    おれは自転車を置いて近づいた。

    すると早苗は顔を上げておれを確認するなり、突然無言で抱きついてきた。

    「さ、なえちゃ......!?」

    慌てて引き離そうと肩に手をかけるおれ、我に返ったように慌てて離れる早苗。

    「ごめんね、つい」

    「つい、はいいんだけどさ......どうしちゃったんだよ、一体」

    「......なにも聞かないで。ついてきて」

    そのまま足早に北のロータリー方向へと歩いていく早苗。おれも慌てて自転車のスタンドを上げた。

    たどり着いたのはオートロックのマンション。

    「なあ、ここ早苗ちゃんの家?なんでいきなり......怒られねぇの?勝手に人なんか上げて......」

    「そこにチャリ停めて。いいよ誰もいないから」

    「お、おう......」

    正直、何も期待していなかったと言えば嘘になる。けれど、当時は期待なんかより、なにも話してくれない早苗への不安とただならぬ状況への緊張が完全に勝っていた。

    そんなおれを、早苗は自室の玄関へ導いた。

    先に扉の内側に滑り込んだ早苗に続いて、遠慮がちに部屋に入る。すると早苗は、扉が閉まるなり靴を脱ぐのも待たずおれに詰め寄り、肩を玄関の扉に押し付けておれの唇を奪った。

    「さなっ......」

    声をあげようと小さく開いたその隙間から舌が侵入してくる。

    容赦なく口内を犯されながら、ふと目が合った早苗は泣いていた。

    完全に何が起こったかわからなくなって思考が停止し、おれはただひたすらやられるままになった。頭が真っ白になる。泣きたいのはこっちだ。一体全体どうなってやがる。

    気になる女の子にキスをされているというのに、幸福感や幸せなどはすっかり疑問符に覆い被さられてしまっていた。

    彼女の唇は首筋へと降りてゆき、やがて噛みつくように鎖骨を貪る。そこでようやくハッと我に返ったおれは、早苗の頭をつかんで無理矢理引き剥がした。

    「早苗ちゃん......?マジで大丈夫かよ、ほんと、説明してくれ」

    「日下くん、ごめん。ほんとごめんね。ごめん、ごめん......」

    「いや、ごめんじゃなくてさ......落ち着こ、一旦落ち着こう、な」

    玄関先でしゃがみこんですすり泣いている早苗を部屋の奥のソファへ誘導し、とりあえずとなりに座って背中を撫でてやった。

    なかなか泣き止まなかったが、しばらくしてようやく顔を上げて目を合わせてくれた。

    「......ごめん、何も言いたくないの。辛いことがあって......でも、日下くんじゃなきゃダメだった」

    「少しでも......」

    「ごめん」

    こんなにもはっきりと断られてしまったら、もう何も言えなくなる。おれもようやく落ち着きを僅かに取り戻し、冷静に早苗と向き合えるようになってきた。

    「そっか。......俺に何ができる?」

    「......ぎゅってして」

    おれはそっと彼女を抱き寄せ、頭を撫でた。柔らかい髪の感触が、おれに母性に近い慈愛をもたらした。そのまま軽くキスを降らせながら、ソファに押し倒す。早苗は抗わなかった。

    無言の時間。強くなった雨と、唾液を飲み込む音だけが変に大きく聞こえた。


    梅雨の苗②

    そもそも、彼女はなんだか不思議なのだ。

    成績をちらっと見るにとても頭がいいし、学校も毎日普通に来ているし、何故留年したのだろうか。

    クラスメイトとも馴染んでいるのに下世話な噂は聞かないし、むしろ誰々が告った誰々が振られたなんて話ばかりだった。そのすべてを、彼女は断っていたようだ。

    6月のあるとき、突然おれの携帯が短く鳴った。

    ただのメールの通知音。普段なら後回しにするのだけれど、その時なんだか無性に嫌な予感がしたのでメールを開封してみた。

    『会いたい。倉島駅、西改札口』

    早苗からだった。

    メールアドレスは交換していたが、メールが届くのは初めてだった。

    倉島駅は最寄り駅ではなかったが、自転車なら15分で着く場所だ。なにより、気になっていた女子から「会いたい」と言われたのが嬉しすぎて、期末考査の課題を放り出してチャリに飛び乗った。小雨がぱらついていた。

    西改札口のバス停近くで、早苗は柱に凭れて待っていた。傘は持っていなかったが、濡れている様子もない。ついさっき駅についたようだ。

    「早苗ちゃん」

    おれは自転車を置いて近づいた。

    すると早苗は顔を上げておれを確認するなり、突然無言で抱きついてきた。

    「さ、なえちゃ......!?」

    慌てて引き離そうと肩に手をかけるおれ、我に返ったように慌てて離れる早苗。

    「ごめんね、つい」

    「つい、はいいんだけどさ......どうしちゃったんだよ、一体」

    「......なにも聞かないで。ついてきて」

    そのまま足早に北のロータリー方向へと歩いていく早苗。おれも慌てて自転車のスタンドを上げた。

    たどり着いたのはオートロックのマンション。

    「なあ、ここ早苗ちゃんの家?なんでいきなり......怒られねぇの?勝手に人なんか上げて......」

    「そこにチャリ停めて。いいよ誰もいないから」

    「お、おう......」

    正直、何も期待していなかったと言えば嘘になる。けれど、当時は期待なんかより、なにも話してくれない早苗への不安とただならぬ状況への緊張が完全に勝っていた。

    そんなおれを、早苗は自室の玄関へ導いた。

    先に扉の内側に滑り込んだ早苗に続いて、遠慮がちに部屋に入る。すると早苗は、扉が閉まるなり靴を脱ぐのも待たずおれに詰め寄り、肩を玄関の扉に押し付けておれの唇を奪った。

    「さなっ......」

    声をあげようと小さく開いたその隙間から舌が侵入してくる。

    容赦なく口内を犯されながら、ふと目が合った早苗は泣いていた。

    完全に何が起こったかわからなくなって思考が停止し、おれはただひたすらやられるままになった。頭が真っ白になる。泣きたいのはこっちだ。一体全体どうなってやがる。

    気になる女の子にキスをされているというのに、幸福感や幸せなどはすっかり疑問符に覆い被さられてしまっていた。

    彼女の唇は首筋へと降りてゆき、やがて噛みつくように鎖骨を貪る。そこでようやくハッと我に返ったおれは、早苗の頭をつかんで無理矢理引き剥がした。

    「早苗ちゃん......?マジで大丈夫かよ、ほんと、説明してくれ」

    「日下くん、ごめん。ほんとごめんね。ごめん、ごめん......」

    「いや、ごめんじゃなくてさ......落ち着こ、一旦落ち着こう、な」

    玄関先でしゃがみこんですすり泣いている早苗を部屋の奥のソファへ誘導し、とりあえずとなりに座って背中を撫でてやった。

    なかなか泣き止まなかったが、しばらくしてようやく顔を上げて目を合わせてくれた。

    「......ごめん、何も言いたくないの。辛いことがあって......でも、日下くんじゃなきゃダメだった」

    「少しでも......」

    「ごめん」

    こんなにもはっきりと断られてしまったら、もう何も言えなくなる。おれもようやく落ち着きを僅かに取り戻し、冷静に早苗と向き合えるようになってきた。

    「そっか。......俺に何ができる?」

    「......ぎゅってして」

    おれはそっと彼女を抱き寄せ、頭を撫でた。柔らかい髪の感触が、おれに母性に近い慈愛をもたらした。そのまま軽くキスを降らせながら、ソファに押し倒す。早苗は抗わなかった。

    無言の時間。強くなった雨と、唾液を飲み込む音だけが変に大きく聞こえた。


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