煙の向こうで、私を見つめてた

ビルの裏手にある喫煙所。

夕方、仕事帰りのスーツ姿のあなたと、偶然出会った。

「吸うんだ？」って少し驚いた顔で笑ってたけど、

その目は、最初から私の唇ばかり見てたよね。

細いタバコに火をつけて、ゆっくりと吸い込むと、

熱と香りが胸の奥まで満ちていく。

あなたが横に立っているだけで、煙の味まで甘く感じるのが不思議だった。

ふたりきりの狭い空間。

風もなくて、息づかいさえ近くに感じる。

灰皿にタバコを落とした瞬間、

あなたの手が、私の腰に触れた。

「ダメだよ、こんな場所で…」

そう言いながらも、抵抗する気はなかった。

むしろ、このちょっと汚れた空気の中で、

私自身もどんどん乱れていくのが、気持ちよかった。

壁際に押しつけられて、

スカートの中にすべり込んできた指先。

吸いかけのタバコが落ちる音すら気づかないほど、

私はあなたに支配されていた。

外から見えそうで見えない、

声を出せそうで出せない。

そんなギリギリの場所で、

私の奥まで触れてくるあなたの熱が、

一番、くせになりそうだった。