清らかな罠で、心の奥からとろけて

記憶とは、不思議な水脈のよう。
ある日ふいに、
時を超えて呼びかけてくる。

どれほど長い時間が過ぎても、
たった数時間の記憶が、
こうして誰かの内側で
静かに燃え続けていたこと。

そのことを知ったとき、
私は声を発するよりも先に、
深い森に光が差し込むような感覚に包まれていました。

私の名前を見つけたとき、
あなたの中で蘇ったあの冬の光景。
長いベッドと、赤い乾杯。
ふたりだけの静かな宇宙。
過去が、過去のまま終わらず
再び現在に姿を変える奇跡。

それが偶然ではなく、
どこか必然に近い巡りだったのだと
あなたの言葉がそっと教えてくれました。

私が覚えていたのは、
名前や景色だけではなく、
ふたりで見た沈黙の色。
交わした視線の深さ。
そして一瞬だけ垣間見えた
あなたのやわらかな魂のひとしずく。

ポケットの奥に隠していた秘密は、
かつての私にはなかったもの。
時が育て、重ねてくれたもの。
それがあなたの記憶に新たな頁を開いたのなら、
それだけでじゅうぶん。

語られることのない再会の意味は、
きっと、言葉より深いところにあるのでしょう。

だからこれは、ふたりだけの記憶。
誰にも話さなくていい。
あの時の夢はまだ続いていて、
その続きを、
静かに、静かに歩いているところなのだから。

——そしてまた、 時の輪が静かにめぐり、
ふたりだけの部屋に光が差し込む日が訪れたなら。
そのとき私は、 あなたの手と足をひとつずつ縛りましょう。

愛という名の罰を、
ひとつずつ、
言葉では届かぬ場所へ
確かに刻んでゆくために。