おまじない

丁寧に暮らすことはおまじないに似ている。
美味しい食事、清潔な服、整った部屋。

そんな小さな美しさは、人生に迷ったとき
自分を守るおまじないになる。

「こんなに美しいものが、ちゃんと自分の手の中にある」と確かめるように。

嫌なことや理不尽な出来事は
待っていなくても勝手にやってくる。
だからこそ自分で自分を救える日常が
必要になる。

たとえば仕事でミスをして叱られた夜。
沈んだ気持ちを抱えながら
食器をひとつずつ丁寧に洗う。
泡の感触、水の音、拭き終えた台所の静けさ。
そのささやかな行為が
知らず知らずのうちに心を整えてくれる。

もし大切な人が深く傷ついていたら
「大丈夫だよ。」と抱きしめて
ひとつずつ解いてあげたい。
そして目の前の生活の中に確かにある
美しい瞬間を教えてあげたい。

丁寧に暮らすというのは
その願いを手放さないという
小さくて、でも何よりも強い、おまじない。