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  • 皇帝別館
    KOUTEIBEKKAN

    KABURAGISHIZUKI Diary

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    花火のつぎに終わるのは②

    10/12 11:45

    「......え」

    「俺やん、俺。分かんない?中3とき付き合っとった川代雄大」
    「ああ、雄大じゃん!なに、丸坊主やめたの?変わりすぎてて分かんなかったよ」
    無造作風にセットされた赤っぽい茶髪、片耳のピアス、極端な薄着にいかついネックレス。
    準硬式野球部でショートを守っていたかつての真面目なちびっちゃいくそ坊主の面影はもはやどこにもなかった。焼けた肌と鼻につく関西弁を除いては。
    私は彼と中学3年の6月から11月まで付き合っていたけれど、受験を理由に自然消滅した。
    手も繋げないまま終わったその5か月間は、上書きを繰り返す自分の記憶の中でもはや無き物と化していたので、彼の強気な口調に懐かしさこそ覚えたものの、いまひとつ感動は得られなかった。
    「浴衣、ええやん。やっぱ凛は白やな。
    やー、花火きれかったけど人混みすごくてやってられんわ。連れともはぐれてもたと思ったら何や女と抜けるとか言いよるし、一人残されて暇やねん。凛は誰か友達と来たん?」
    「や、一人。なんとなく花火見てみたくなってさ。やっぱ夏って花火見なきゃじゃん?」
    「はぁ!?凛が!?俺がどんだけ盆踊りの日の花火誘っても絶対首縦に振らんかったあの凛が!?一人で!?
    ......いやー、人は変わるなぁ」
    「や、あんたに言われたくないから。なにそのピアス?なにその髪型?なにも言われないわけ?全然似合わない」
    「んー、反動、的な?」
    「反動?よくわかんないけど、それじゃ試合出させてくんなくない?前ちらっと聞いたけどさ、拓翔高校甲子園まであと2勝とかだったらしいじゃん。来年まで頑張ろう的な時期じゃないの?こんなところでなにして......」
    「............俺な、野球やめてん。どのみち怪我もしとったし、もう限界かなって。
    向いてへんねん。俺。野球ってか、団体競技無理やわ。......チームワークとか、できやんねん」
    「......野球で高校行ったのに野球やめるって、大丈夫なの?1年のうちは試合も出られないの当たり前だし、もう少し我慢してみてよかったんじゃ......」
    「もうええねん。もうちょっとだけ、もうちょっとだけって耐えて耐えて、軟式と準硬入れたらもう10年野球やってる。それで分かった、あいつらと俺は、ちゃう。根本的に......
    ......それに、俺は成績もまあまあよかったから学校には残留できる。そら元メンも先輩もおるから肩身は狭いけど、何とかやってる。未練はないわ」
    「でも、あんなに......」
    「せや、どうせお互いひとりやったらさ、なんか食べながら駅まで歩こや。エエもん持っとるから分けたる、な?久しぶりにデートごっこもええやろ?」
    “あんなに、野球好きだったくせに。”
    そう言おうとしているのが分かっていて、明らかに聞いてほしくなさそうなタイミングで遮った。
    顔を上げると、雄大は少し困ったような、寂しそうな顔で笑っていた。
    なんだか悪いことをしてしまったようだ。
    少し気まずくなって、数秒の沈黙が流れる。駅の方面へ流れていく人々の姿が背景となって、異様にゆっくりに見えた。
    「......いいよ。奢りね」
    温くなったサイダーをゴミ箱に捨て、雄大の肩をポンと叩いた。

    花火のつぎに終わるのは②

    「......え」

    「俺やん、俺。分かんない?中3とき付き合っとった川代雄大」
    「ああ、雄大じゃん!なに、丸坊主やめたの?変わりすぎてて分かんなかったよ」
    無造作風にセットされた赤っぽい茶髪、片耳のピアス、極端な薄着にいかついネックレス。
    準硬式野球部でショートを守っていたかつての真面目なちびっちゃいくそ坊主の面影はもはやどこにもなかった。焼けた肌と鼻につく関西弁を除いては。
    私は彼と中学3年の6月から11月まで付き合っていたけれど、受験を理由に自然消滅した。
    手も繋げないまま終わったその5か月間は、上書きを繰り返す自分の記憶の中でもはや無き物と化していたので、彼の強気な口調に懐かしさこそ覚えたものの、いまひとつ感動は得られなかった。
    「浴衣、ええやん。やっぱ凛は白やな。
    やー、花火きれかったけど人混みすごくてやってられんわ。連れともはぐれてもたと思ったら何や女と抜けるとか言いよるし、一人残されて暇やねん。凛は誰か友達と来たん?」
    「や、一人。なんとなく花火見てみたくなってさ。やっぱ夏って花火見なきゃじゃん?」
    「はぁ!?凛が!?俺がどんだけ盆踊りの日の花火誘っても絶対首縦に振らんかったあの凛が!?一人で!?
    ......いやー、人は変わるなぁ」
    「や、あんたに言われたくないから。なにそのピアス?なにその髪型?なにも言われないわけ?全然似合わない」
    「んー、反動、的な?」
    「反動?よくわかんないけど、それじゃ試合出させてくんなくない?前ちらっと聞いたけどさ、拓翔高校甲子園まであと2勝とかだったらしいじゃん。来年まで頑張ろう的な時期じゃないの?こんなところでなにして......」
    「............俺な、野球やめてん。どのみち怪我もしとったし、もう限界かなって。
    向いてへんねん。俺。野球ってか、団体競技無理やわ。......チームワークとか、できやんねん」
    「......野球で高校行ったのに野球やめるって、大丈夫なの?1年のうちは試合も出られないの当たり前だし、もう少し我慢してみてよかったんじゃ......」
    「もうええねん。もうちょっとだけ、もうちょっとだけって耐えて耐えて、軟式と準硬入れたらもう10年野球やってる。それで分かった、あいつらと俺は、ちゃう。根本的に......
    ......それに、俺は成績もまあまあよかったから学校には残留できる。そら元メンも先輩もおるから肩身は狭いけど、何とかやってる。未練はないわ」
    「でも、あんなに......」
    「せや、どうせお互いひとりやったらさ、なんか食べながら駅まで歩こや。エエもん持っとるから分けたる、な?久しぶりにデートごっこもええやろ?」
    “あんなに、野球好きだったくせに。”
    そう言おうとしているのが分かっていて、明らかに聞いてほしくなさそうなタイミングで遮った。
    顔を上げると、雄大は少し困ったような、寂しそうな顔で笑っていた。
    なんだか悪いことをしてしまったようだ。
    少し気まずくなって、数秒の沈黙が流れる。駅の方面へ流れていく人々の姿が背景となって、異様にゆっくりに見えた。
    「......いいよ。奢りね」
    温くなったサイダーをゴミ箱に捨て、雄大の肩をポンと叩いた。

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